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シャンパーニュのきらめく泡のストーリー
シャンパーニュのグラスに絶え間なく続く繊細な泡の誕生は、お祝いの席や特別な日を華やかに演出します。香りや味わいだけではなく、見た目も私たちを楽しませてくれるシャンパーニュ。初回は残暑が続くこの時期、爽やかに喉を潤してくれるシャンパーニュの世界の一部をご紹介します。
 

 

■お話:ワインアドバイザー 浜砂じゅんこさん(プロフィール)

 

なぜ泡ができるのでしょうか?
シャンパーニュをはじめとする発泡性のワインは、なぜ泡を生み出すのでしょうか。
これらの泡の正体は、原料であるブドウを発酵させることによって生じる二酸化炭素です。ブドウに含まれている糖分は酵母菌(ビールやパンを作るときにも登場します! その酵母の中でもワイン専用の酵母菌を使います。)の作用によって、アルコールと二酸化炭素(=炭酸ガス)に変わります。


発泡性ワインは、このアルコール発酵を

(1) 瓶の中で行う。      (2) 大型タンクの中で行う。(そのあとに瓶にうつしかえる。)

方法とがありますが、他に

(3)ワインを作った後に炭酸ガスを注入する

方法で作られることもあります。

日本で一般に「シャンパン」と呼ばれるものはもともとフランスの「シャンパーニュ地方」で作られた発泡性のワイン「シャンパーニュ」に由来するもの。これは上の@の方式で作られます。「シャンパーニュ」は使われるブドウの種類をはじめ、作り方まで厳密な規定があり、また非常に手間がかかるものなのです。 

さて、この発酵によって生じた炭酸ガスは、コルクを抜くまでずっと静かに息を潜めたまま、その瞬間を待ちます。


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泡の発生から成長、そして…
瓶の中に閉じ込められている炭酸ガスは、ワインの液中の他にも瓶の中の空気にも存在して圧力のバランスを保っています。ところが、ひとたび瓶を開けるとそのバランスが崩れて、液中の炭酸ガスが泡という形で生まれてくることになります。

このシャンパーニュがグラスに注がれると・・・

どこから泡が生まれてくるのでしょう・・・実は、泡の発生源はグラスに付着したごく小さい繊維のようです。シャンパーニュをグラスに注いでもこの繊維のせいで完全にはグラスが濡れることはありません。そこに炭酸ガスが入り込み、ここからはかなくも美しい泡の一生が始まります。

はじめはグラスに吸着していますが、そのうち自身の浮力によりグラスから離れ、上昇していきます。上昇しながら、液中の香りの成分や炭酸ガスをその体に蓄えながら成長して大きくなっていきます。
泡の大きさが大きくなるほど液中から受ける抵抗は大きくなります。そうすると徐々に上昇スピードは抑えられていくのです。もともとシャンパーニュの液中に溶けている炭酸ガスの量はビールのそれと比べて約3倍だそう。だんだん大きく、そしてゆっくりと液面にむかっていきます。

やがて泡は自身の崩壊とともにその短い一生が終わります。弾けた後の液面は一旦凹みを作りますが、すぐに一筋の棘のような液面の上昇ができます。それも次の瞬間、細かなしずくに分解して、液面に向かいながら蓄えてきた香りの成分を一緒に空気中に放つのです。泡は無数の列をなして上昇してきていますから、それが次から次へと・・・そうして私たちはあの魅惑的な香りに出会うのです。


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シャンパーニュを楽しむグラス
この泡の一生を観察するには細長いフルート型と呼ばれるグラスの形が適しているでしょう。口の部分も狭いため、泡とともに放たれた香りの成分も口の部分が広いものよりも凝縮されてより強く感じることができます。

 

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シャンパーニュを使ったカクテル
もちろん、そのままでも十分に美味しくいただけるのですが、フルーツを使ったシャンパンカクテルはいかがでしょうか。

今の時期はブドウがおすすめです。
ブドウを5〜6粒、皮と種を取り除いた後、少量のシャンパーニュ(発泡性のワインでも美味しく作れます)を注ぎ、その中で軽く潰します。
それを漉し器を使って不純物などを取り除き、潰したブドウとともにグラスに入れて、好みの量までシャンパーニュを注げばできあがり。

フルーツはブドウでなくても旬のものでOK。
フルーツをシャンパーニュの中で潰すことによってフルーツとシャンパーニュがお互いなじみますし、フルーツがグラスの底に沈まないカクテルができます。シャンパーニュの香りとともにフレッシュなフルーツの香りも楽しめます。

 

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お酒のおもしろいところは、作られた原料が加工されて違う形で存在し続けること。

瓶はタイムカプセルのようなものです。シャンパーニュの泡も元はといえばフランスのシャンパーニュ地方のブドウ。多くの方の手を経て、時間と手間ひまをかけて育てられてきました。私は、その凝縮された時間を泡の成長という形でグラスの中で見せてくれているように思うのです。

シャンパーニュを楽しむときは、その時間に思いをはせながら召し上がってみてはいかがでしょうか。

(参考文献:日経サイエンス 2003年3月号)